統合趣味環境

その都度、気になったことを綴ります。

これまでに読んだ 光学/光工学 の本たち

光学の勉強で読んでいる本

いまのところ、幾何光学から始まって光学全般(ホログラフィを除く)を見回してきた。最近は発展してレンズ設計について詳しく読み始めた。

「うーん、光学とレンズ設計は本質的に違うかもな~(小並感)」という雰囲気を感じ始めたし、今まで集めた情報が脳内のみならず物理的にも氾濫している(整頓が下手くそなんです)ので、ここらへんで今まで読んできた本を軽くまとめておく。

意外に「光学・光工学の勉強に適した本」とかを検索してもイイ感じの本がヒットしなかったり、某通販サイトの評価は星4以上なのに私の自習の感触ではあまりオススメできない、あるいはその逆という本があるので、誰か素人の目に触れ、参考にされると嬉しい。一方で私も初学者なのでオカシイことを主張する可能性があるから、あくまで参考にする程度にとどめて頂きたい。

なお文献は書名と著者名(必要なら編纂に関わった企業名や訳者名)のみしか記していないが、これをネットで検索すれば一発で某通販サイトやらが出てくると思うので許してほしい。


『光学の原理(1)』, Max Born, Emil Wolf (草川 徹 訳)

光学の分野を広く見渡すことができた。けど、理解しようと思うなら初学者には非常にキツイ。1巻ではいわゆる三角光線追跡について手法が掲載されていて、完成しつつあるプログラム(2次元光線追跡は完全にできるようになった)の基本的な式はこの本から学んだ。以外にこの手法の数式を書いている本が少ないかもしれない。内容としては高校生でも理解できるレベルの幾何なのだが、最近は後で述べるベクトルを用いた光線追跡手法に淘汰されてしまい重要性が薄れているのかもしれない。

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『光学の原理(1)』を読むと、一応こんなことができるようになる。

光線追跡のコードは全体の分量の1/4にも満たないと思うけど。

『光学の基礎』, 左貝 潤一

買って手元に置いている本の一つ。非常によい。本当に初学者向けのレベル。これを読むと光学の基本事項が理解できる。レンズにつながるのは近軸光線追跡のところで、この本では行列光線追跡を行っている。光線角度が特殊だった気がする(業界によって基準が変わるらしい)。この定義がややこしく、最終的に屈折行列と転送行列のみ活用したが角度表記は『レンズ設計工学』の手法を使った。回折や干渉だけは最初に別の本で勉強した方がいい。あとで読み返してみると非常に理解しやすい。総じて神本。

『光学』, 谷田貝 豊彦

回折と干渉の部分だけ利用した。非常に分かりやすいがGreen関数の符号が『光学の基礎』と逆なので注意(どちらでも成り立つから困る)。ある程度の複素フーリエ変換の知識があればついて行ける(定義式を知っているだけでもけっこう行ける)。これ以上に興味が出たら『フーリエ結像論』とか『ヘクト 光学』を読むべきだと思う。巻末に、分野別の参考にすべき図書がまとめられていて非常に親切なので、私のサイトよりこちらを信じるのも一つの手(ただしここで挙げている本の大半はそこに書かれていたはず)。

『ヘクト 光学 III : 現代光学』, Eugene Hecht ( 尾崎 義治, 朝倉 利光 訳)

フーリエ光学あたりを勉強しようと思って手に取った。これは3巻立てで、現代光学は最終巻。このシリーズは「光学」であって、レンズ設計など「光工学」そのものは出てこない。1巻の光線追跡に関しても単レンズ程度の近軸追跡のみ触れている。3巻のメインもあくまでフーリエ光学であって、前半では開口や画像そのもののフーリエ変換をこまごまと書いている。いかにも専門書の香りがする。いまのところあまり利用していない。

『光学ハンドブック――基礎と応用』, 宮本 健郎

先に触れたベクトルを用いた3次元光線追跡をメインに、回折・干渉の部分を少し利用した。Green関数は±を使って表記されているので上の2冊の折衷。『光学の基礎』で勉強した近軸追跡と3次元光線追跡を合体させてスポットダイアグラムが描ける(下図)。実際にはより多くの光線を追跡する必要があり、最近は1000点以上をプロットさせている(この必要性は『フーリエ結像論』を読むこと)。式変形が丁寧でお勧めできる。

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さっきのレンズに対して計算したスポットダイアグラム(左)。右は入射瞳とそこを通る光線

フーリエ結像論(復刊)』, 小瀬輝次

レンズのフーリエ変換作用について書かれている。比較的わかりやすい内容で、同じような内容の光学ライブラリー1巻目『回折と結像の光学』より噛み砕いて(さらに一つの分野に特化して)書かれているので親切に感じる。スポットダイアグラムから光学伝達関数(いわゆるOTF)を求める方法が書かれている。ここら辺で「スポットダイアグラム重要やん!」と思ったので、上で紹介した『光学ハンドブック』で3次元光線追跡を勉強した。フーリエ変換の理解を深めてからもう一度読みたい。

実は最近読み返した結果、曲がりなりにも幾何光学的MTFが描ける基礎理論が完成した。レンズメーカーのサイトにあるようなグラフとは種類が違ううえ彼らは波面光学の視点から求めているので、引き続き研鑽を積みたい。

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光軸上の無限遠点に対するMTF(仮)。先ほどまでのレンズ系とは違う系による。

『レンズ光学入門―結像の本質を射抜く』, 渋谷眞人

順番的には2番目くらいに読んだが順位は下の部類だと思う。初心者がここで分からないからと言って歩を止めると時間の無駄なので、迷わず先に進み続けるべき。収差の計算手順の導入あたりが比較的詳しいが、実際に収差係数を求めてはいなかったと思う。ただ、収差とどう向き合っていくかが初心者レベルで細かく書かれているのも確かであり、正弦条件不満足量(OSC)について詳細に触れているのは今まで読んできたところ、この本しかないように見える。

『レンズ設計法』, 松居吉哉

復刊された新しいものを読んだ。収差係数が載っている本は比較的少ないので貴重な一冊。薄い。とはいえ、わかる人が見ればわかるのだろうが、素人には厳しい一面もある。収差係数の導出は書かれておらず、完全に「実用」に特化した感じがある。5次収差係数にも触れており稀な内容になっている。春休み終盤に借りたせいであまり読めていない。いつかまた読みたいと思える本でもある。いろいろな本で参考文献に取り上げられている。同じように幾度も参考文献に挙げられている例では久保田広の『光学』があるが、まだ見たことがない。

『レンズ設計のすべて 光学設計の真髄を探る』, 辻定彦

レンズ構成の歴史を一冊にまとめた本で、かなり親切な部類に入るしその領域の専門書では稀有で貴重な存在ではなかろうか。巻末にはレンズデータも載っているため非常に便利。レンズデータは曲率半径・レンズ間隔や厚み・屈折率やアッベ数(硝材)だけが載っているものも多くて困るが、この本はレンズ半径もあるので親切。というのも口径食(vignetting)が計算できないからね。歴史上「イエナガラス」の開発がどれほど重要だったかがわかる本。また、新旧ダブレットそれぞれの特色(拡散・収斂作用)と、それを活かした設計例がわかる。後で触れるが巻末には収差図も載っており、この本の表現方法は比較的良い。ただサイト上で評価が妙に低いのが気になる。素人が読む分にはもっと上位で良い。様々な文献で目にするが、レンズ設計者はレンズの歴史を知っておくこととその特性を熟知していることが重要らしい。

『シッカリ学べる!「光学設計」の基礎知識』, 牛山善

一番最初に『光学の原理』と共に読んだ。素人にはぴったりだが、これを読んで何かができるようにはならない。分野の紹介程度にとどまる。全体を見渡すのにはちょうどいい内容。この感想文から分かる通り、あまり活用していない。

『Modern lens design : A resource manual』, Warren J. Smith, Genesee Optics Software, Inc

突然の横文字だが、これはレンズのデータがびっしり詰まった一冊で、非常に重宝する。私はこのデータを部分的に取り出してExcelに書き込んで、プログラムに計算させている。非常に古い特許が多いので硝材のデータが見つからないこともある(少なくとも素人の我々には探せない)。また、横収差図がたぶん像面上ではなくメリジョナル・サジタル像面上で描いてあるので、この点は『レンズ設計のすべて 光学設計の真髄を探る』とは異なるし、計算させにくい(ぶっちゃけ今はできてない)。球面収差図はある程度一般的で、これをもとに計算やデータが合っているかを確認できる。ただし正弦条件不満足量がプロットされておらず、d、F、Cの波長がプロットされている(と記憶している)。

『綜説応用光学』, 応用物理学会

古い本だが、波面光学の観点から収差係数を求めている点で貴重。ただし途中の計算は多分に省略されているので不便。おそらくこの計算はSchwartzchildとHertzbergerの方法をなぞっていると思われる。ぶっちゃけ、ぜんぜん使ってない。収差係数の導出を探しているときに手に取ったので書いておくことにした。

『レンズ設計工学』, 中川 治平

買って手元に置いている本。現在読んでいる途中。収差係数の導出から書いてあるため貴重。この導出方法が『レンズ設計―収差係数から自動設計まで』の巻末にも記載されているが、「中川式」と書かれており独自の計算方法なのかもしれない。また、メリ・サジ像面の求め方も書いてあったりするので非常によい。再版してくれてもいいのになと思う。私は古本で手に入れました。これも評価は低いがおすすめできる。もちろん、いろいろな点で「最初に読むべき本ではないな」「この分野の慣れが必要だな(生意気な素人)」と感じるが、収差係数を球面収差などのみにこだわらず全般にわたって導出しているのは比較的最近の本ではこれしか無いんじゃなかろうか。こういった点では貴重だし、わざわざこの部分が書いてある本を探し求めて神保町まで赴いたのは無駄ではなかったと思う。

『レンズ設計―収差係数から自動設計まで』, 高橋 友刀

『レンズ設計工学』でも示唆されていたのだが、私がまだ収差係数を求める際の規格化問題を理解していなかったため助けを求めた本。ぶっちゃけまだ解決していないが大体の予想がつけられる内容だった。『レンズ設計工学』の後に同出版会から出された本で、内容は被る点も多いがしかし演習がどの本にも引けを取らない。ましてレンズ設計寄りの演習なので貴重(私は怠惰なので演習を解くより自作プログラムを優先させたが...)。

サイトだけど...株式会社レンズ屋 さんの『光学サロン』

めちゃいい。見てみることをお勧めする。レンズデータも載っているので良い。質問コーナーみたいなのがあるんだが、いろんな人の悩みを見て、プロの解答に触れる機会を作ることができる点で最高。


総じて感想

光学・光工学の勉強を始めて1年半くらいだが、思ったより色々な本を読んでいた。全部がある程度役に立っているという点を強調しておきたい。まだ読んでいない名著(たとえばBerekの『レンズ設計の原理』、Duffieuxの『フーリエ変換とその光学への応用』とか)もあるので、今後も頑張るぞ...まあ、ほどほどに。