レンズを比較すること
ちょっとレンズについて発見したかもしれないので、今回はその話。
発見というのは、私の使っているCanonの純正レンズ、「隠れLレンズ」ことEF70-300mm F4-5.6 IS II USM(以下、300mm)ちゃんについてのことなのですが…
先日、親戚の白レンズ(すなわち本物のLレンズ)、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM(以下、400mm)を使った時のことです。
羽田の第二ビルで写真を撮っていました。白レンズの重量にほとほと呆れ返って、私の私物300mmに付け替えた瞬間でした。
「あれ、輪郭線が違う」
ファインダー越しに分かるほどのシャープ感の差。家に帰って調べてみると、確かに城南島でも同じように輪郭線に差が出ていました。
ここら辺を比較したところ、300mmの特徴が少し見えてきた気がしたので、ちょっとまとめてみたいと思います。
比較してみよう!
以下に、比較対象の写真をあげてみました。
柔らかいような印象でしょうか?ふわふわと浮かんでいる、そんな表現がぴったりのようです。
こちらは、どーんと構えている感じでしょうか?締まっているという表現が似合うようです。
これら二つを比較してみたいと思います。なぜ比較できるのかって?いい質問ですね。実は、もともと二つのレンズを比較しようと思って同じ設定で撮っているからなんです。
・絞りf/5、シャッタースピード1/2000[s]、ISO感度125、ピクチャースタイルは風景
と、こんな感じです。使用したカメラ本体はEOS 80Dです。ちょっと飛行機の背中側を覗いてみましょう。
何を血迷ったか、400mmではWBが太陽光なのに対し300mmではオートの雰囲気優先になっていたため、400mmの方が青っぽいです。
さて、400mmは綺麗に機体の白と空の青が移り変わっています。一方で300mmはどうでしょう?いかにも「輪郭線」のような黒っぽい線が挟まれているように見えます。二つの写真では引き伸ばした倍率が違いますから単純な比較はできませんが、それでも雰囲気は全く違うことが分かるでしょう。
二線ボケとは
ちょっとこの原因を探してみましょう。私の主砲300mmを検索したところ、「二線ボケ」なる単語がヒットしました。輪郭が二重に見えるのです。
原因は球面収差の過度な補正とのことです。
特にこの部分を論じたからといって解決するわけではないのですが、ちょっとまとめてみました。気にしない場合は読み飛ばして構いません。
球面収差とは
聞きなれない単語ですよね。
紙を虫眼鏡で焼こうと考える少年少女は多いと思いますが、ここで質問したいことがあります。集光したとき、本当に一点に集まっていますか?
学校の予算で買えるようなレンズは特殊な形状をしておらず、おおかた球面です。特に数式を解くことなく「球面にされた」レンズの気持ちを考えてみてください。一点に集まろうはずもありません。これが球面収差です。
カメラレンズは複数のレンズの集合体ですが、その特性の顕著な部分は「複数の誤差の要素たち」で表現できます。いわゆるSeidel五収差です。このうちの一つが球面収差で、他には歪曲収差やコマ収差などがあります。
球面収差の補正が甘いと、先に述べた「紙を焼く光の点」の中でムラができ、周辺だけ光が濃いなどの現象が起きるそうです。
球面収差を簡単な言葉で表すなら、
「レンズに入ってくる入射光のレンズ中心からの高さh」によって「倍率β」が変化する
とでも言えましょうか。hは光軸からの距離とも言えますね。倍率の変化をテキトーに調整すると像がダブりそうですが、なるほどそれで輪郭が濃く見えたのかもしれません。
あいにく机上の論では無限遠方の光線とか点光源とかを考えるのが簡単ですし、三次元の物体を紙面上で結像させるほど私は頭が良くないので、これくらいの概念で許してください。
球面収差の補正は光学系によって決まりますから、自分勝手にレンズを組み合わせて「球面収差の過度な補正」状態を作り三角光線追跡式で評価することももちろん可能です。が、今回の問題はそんなことではなく、むしろ写真という結果論ですから、これ以上は議論しないことにしましょう。
本当の原因は?
うーん、何となくわかった(?)けれど、本当にこれが原因なのか?やはりこれが気になりますよね。残念ながらCanonのサイトではMTF特性図というコントラストとか解像度の評価ができる図しか載っておらず、球面収差のわかる「球面収差図」が手に入りませんでした。これがあれば、球面収差がないとき(正弦条件のとき)の線「OSC」をプロットしてもらって評価できるんですが…
迷宮入りとせざるを得ないようです。
しかし、自分のレンズにこんな特徴があるとは思ってもみませんでした。
特性を知っておくこと、特性の原因を知っておくことは実用的にも教養的にも大事ですね!
他の観点から
他の写真を見てみると、さほどこの特徴の差が見られないような場面もありました。
しかし、やはり力強さと言うべきか、描写の違いは感じます。
以下に、第二ターミナルで撮った写真を貼っておきます。
どうも判然としない描写力。ノロノロ走る飛行機にオートフォーカスがついていけないはずはないんですが…陽炎を忠実に描写し過ぎたのでしょうか?
しかし陽炎のせいとはいえ、以下のような写真が300mmで撮れることは注意すべき点です。
当然、陽炎の質の違い、場所の違いはあります。しかしこの目の覚めるような鮮やかさや描写力は、300mmのニセLレンズとはいえ、真のLレンズたる400mmに負けません。それどころか勝っているでしょう。
結論!
私物を馬鹿にされたくない感情はあります。しかし、いままでの議論を振り返ると個人的には300mmの我が主砲を推したいところです。
300mmの描写は一級品、力強く、それでいて繊細な構成の写真が撮れます。
一方で400mmは、描写力の高さを武器にしつつ、ふんわりとした柔らかな印象を受けます。一方でそれがぼやけた印象を与えることもあるようです。
よって、以下の結論を与えます。
EF70-300mm F4-5.6 IS II USMは、神レンズだった!
非常に軽量な710[g]のボディ、シンプルなデザイン、初の液晶ディスプレイ搭載という才色兼備の出で立ち。100-400mmの重量1570[g]に比較すればその優秀さは歴然でしょう。そしてそのレンズが映すのは打って変わって迫力に満ちた世界なのです!
普段使いに丁度いいとか、そんな次元じゃない!
これは…本当に優秀なレンズなんだ!
しかしこうした意見が言えたのも、重量がありすぎて三脚の持参を余儀なくされたうえ、腕が疲れてグロッキーという結末に至らしめた文鎮こと100-400mm望遠との比較の末の結論です。親戚にはこの場をお借りして御礼申し上げるとともに、光学の参考とさせていただいた各サイト、そして渋谷眞人氏の『レンズ光学入門』なる書籍に感謝の意を表します。
追伸
カメラレンズの数式的なオベンキョウは私のHTML技術が向上したのち書くかもしれませんが、撮影に応用できるのは被写界深度とか、Fナンバーと明るさの関係(これらを論じるには正弦条件とかNewtonの公式の理解が必要)程度なので、ひょっとすると書かないかもしれません。
設計者でもない限り、収差論とかMTF特性図の数学的議論は必要ないでしょう。
文章中で出てきた「三角光線追跡式」について書いても良いかもしれません。
がんばれ未来の自分!